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2025年度 2学期「終業のことば(校長)」

2025年12月18日

終業式 校長のことば

おはようございます。諸君にとってことしは、どんな一年だっただろうか。

中略

2学期の間、本当にさまざまな出来事があった。

政治も大きく変化している。女性初の高市首相の誕生。公明党が自民党との連立を解消。自民党は日本維新の会と連立を組んだ。

台湾有事をめぐる高市首相の国会答弁をきっかけにした中国との関係悪化は収束の見通しが立っていない。日中、そして米国も、安全保障環境を良くする外交を行ってほしいと私は思う。

11月下旬、同性同士の婚姻をめぐって、それを認めていない現行の民法や戸籍法の規定が、憲法に反するかどうかが争われた訴訟(裁判)。東京高等裁判所は「合憲」(憲法に違反しない)と判断した。

これまで「違憲」が5件続いていた。国会での論議は不可欠だ。今後、最高裁判所がどのような判断をするかが注目されている。

新潟県の花角英世知事は、新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の容認を表明した。東京電力は2011年3月、東日本大震災で福島第一原発事故を起こしている。実現すれば東京電力にとって再稼働は事故後初となり、首都圏の安定した電力供給につながるという声がある一方、特に住民の不安や心配に県や国がどう寄り添うかが注目されている。(12月、鈴木北海道知事は、泊原発の再稼働に同意したと表明した)

劇的なこともあった。

米国大リーグで大谷翔平選手、山本由伸選手、佐々木朗希選手が所属するドジャースが2年連続で優勝。大谷、山本、佐々木の3選手が大活躍で、延長18回の試合があったり、劇的なサヨナラホームランが飛び出たり。大谷選手の豪快なホームランや山本選手のこれ以上ないナイスピッチングがあり、野球を愛する私はしびれにしびれた。

その他、大分や香港での大火事のニュースに言葉を失った。一日も早い復興を願う。

11月上旬、米国ニューヨーク市長選挙で、イスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が100万票を超える得票で当選したことに、民主主義の光を感じた。

連日のクマ被害、広島をはじめとするカキ不漁の問題、政治団体「NHK党」の党首が逮捕された事件、青森県八戸あたりを中心とした地震とその後の大地震を警戒した「後発地震注意報」発令、オーストラリアでの射殺事件等々等々、諸君といっしょに考えたいことは盛りだくさんだが、これらのいくつかは、3学期の始業式に述べることにする。

創立記念式典でも伝えたが、いまだ終わりが見えぬウクライナでの戦争とガザ地区での戦闘に胸を痛める日々である。停戦協定を結んだのにガザは爆撃され続け、死者は7万人に達した。とりわけ、報道で見る諸君と同じ子どもたちの傷ついた姿や泣き顔を見るとほんとうに辛く胸が苦しい。

そのような中で、ロシアのプーチン大統領がウクライナに「核の脅し」を使い、米国のトランプ大統領が「核兵器の実験」を指示するなど、核兵器使用のハードルを下げかねない大国の動きが相次いでいる。広島と長崎の被爆者たちが核なき世界のために命を削って地獄と化した「あの日」を証言し、「核のタブー」を世界に形成したことが評価され、その被爆者たちが中心となって活動する「日本被団協」が昨年、ノーベル平和賞を受賞したことをあざ笑うかのように、である。

諸君は「非核三原則」を知っているだろうか。そして、言えるだろうか。「核を持たず、作らず、持ち込ませず」。「非核三原則」は被爆国日本の国是である。国是とは、長きにわたって国民の支持を得た国家の方針のこと。

11月中旬、高市早苗首相がこの「非核三原則」の見直しを検討していると報じられた。

これに対して、元広島市長の平岡敬さんは中国新聞でこう語る。

「核兵器で国民の命や安全を守れるという考え方は時代錯誤だ。もし、核兵器が国内に持ち込まれたらどうなるか。……配備されれば他国にねらわれるだろう。攻撃されれば、80年前の広島、長崎以上のもっとひどい状況が地球上に現れて人類は滅びかねない。核兵器が存在する限り、理性を失った指導者がボタンを押したり事故で誤って使われたりする可能性がある。すべての危険を取り除くには廃絶しかない」(2025年11月16日)。

同じ日、中国新聞は社説でこう訴える。「(高市首相の「非核三原則」の見直しの検討は)断じて許されない……(高市首相には)「三原則」を堅持し、非核の理想に近づく努力こそ求められる。」(2025年11月16日)

 

東京デフリンピックがあった。耳が聞こえない人の世界大会である。陸上女子リレーに出場した門脇翠(みどり)選手の記事に学んだ。

門脇選手は、耳が聞こえない人たちが集って学ぶ「ろう学校」には通わず、耳が聞こえる人と同じ環境で生活して、スポーツにも打ち込んできた……口の動きを見て内容を読み取る口話を覚えたが、意味がとれないこともしばしばだったという。

「聞こえない自分が聞こえる人に合わせるよう、努力するのがあたりまえ」と思い込んでいた。「聞こえないことがずっと、コンプレックスでした」と門脇選手は言う。

だが、この意識が、デフ陸上の大会に出場して、根底から覆った。「聞こえないことがあたりまえ」な世界。知り合った耳が聞こえない仲間ともっと話がしたくて、手話を学んだ。そして、「聞こえない自分を初めて肯定できて、価値観が変わった」と門脇さんは言う。世界中に仲間の環が広がり、自分が感じてきた「壁」を、耳が聞こえない誰もが感じていることを知った。

デフスポーツの可能性をもっと知りたくなり、大学院に進学して研究。スポーツを通して社会を変えられる自分でありたいと確信し、デフリンピックに臨んでいる。……小中学校での出張講義に行くと、子どもたちが自主的に手話を学んで披露してくれることもある。それがとてもうれしいと門脇選手は笑う。

いま、私たちには、便利さと効率の中で自分に「最適化」された暮らしがある。ニュースもSNSも自分の好みに合うような選ばれた情報が目に入る時代となった。そして、他者への想像力を育むことが難しい時代となった。その難しさを自覚することがとても重要な想像力なのだと私は思う。

学校のクラスや部活動では思い通りに行かないことも多い。自分の意見が通らないこともあろう。失敗して悔しいこともあろう。でも、そんな経験を重ねるうちに人は少しずつ他者を思い、違う立場を想像できるようになる。そうした想像力を持つことができれば、ただ「正解」や「正義」を求めるだけではなく、異なる考えの背景や文脈、その先にある課題を問い続けられるようになるだろう。それは誰にとっても大切な想像力だと私は思う。

 

今日は終盤、「想像力」をテーマに話をする。

11月11日の日本経済新聞に、ことしのノーベル賞を受賞した大阪大学の坂口志文(しもん)教授と京都大学の北川進教授の対談が掲載されていた。坂口先生は医学、北川先生は化学が専門の理系の先生なのだが、二人とも、哲学や文学、芸術などに幅広く触れて、自身の科学の研究を深められたと語っていた。

「一つ、一つ」を座右の銘とする坂口先生。何度も壁にぶつかりながらも一歩一歩、研究を前に進めてきた先生らしい。坂口先生は「できるだけ(自分の専門とは)違う分野に入っていくこと」が大切だと語る。

「無用の用」を座右の銘とする北川先生。役に立たないと思われているものでも実は大切な役割をもっているという意味の「無用の用」。北川先生は、京都大学の学生時代,「専門以外の人文社会系の授業も受け,そこでユニークな先生に出会い刺激を受けて,本屋さんを回って面白い本を探して読んだ。」と振り返っている。

本を読んで、興味関心を広げ、自分の専門とする以外の哲学や文学、芸術などに幅広く触れ、想像力を豊かにすることで、自分の専門とする学問の研究も深まった、ということだと私は思った。

12月4日の中国新聞に、作家・重松清さんの早稲田大学での、最終講義の内容が掲載されていた。重松さんと言えば、一貫生ならすぐに『赤ヘル1975』を思い浮かべることだろう。学生への重松さんの最後のメッセージが心に染みた。

「ものを知るためではなく、想像力を身につけるために学んでほしい。いろんな見方があることを知り、それを肯定する。そのために人と出会って人と学ぶ。(そのために)学校という場があると僕は思う」と。

そう、諸君も、この盈進で、仲間と語らい、仲間といっしょに本を読み、想像力を鍛え、他者に共感し、社会的な課題を解決するための多様な価値観や多角的な視点を養ってほしいと願う。

(中学生の読書感想文を読んだ。講評は、読書担当の先生や、担任の先生などから聞いてほしい)

私も本が大好きだ。時に没頭して寝る時間も自ら遮ってしまうほどである。1学期の「ホンモノ講座」に来てくださった小林由美子さんオススメの本を何冊か読んだ。人が紹介してくださる本は、「あたり!」の確率がグンと高くなる。森沢明夫さんの『ロールキャベツ』は文句なしに面白くて泣けた。

大学生5人の男女が、バカやったり、悩んだり、ぶつかったりしながら、それぞれの得意分野を認め合い、それを生かしながら最終的に会社をおこそう(スタートアップ起業)とする青春小説。作者の森沢さんは巻末の「あとがき」に「続きが書きたいな」と記しているので、私はいま、それを待っている。

プログラミングが得意なマックというニックネームの男子に、恋心を抱く歌のうまいパン子というニックネームの小柄な女の子が、自分の思いをマックに伝えるシーンが、私の大のお気に入りだ。

パン子がマックに、自分のスマホで撮った写真を見せてこんなことを言う。

「この男な、めっちゃ慌てた感じで、こう言ったんやで。俺、いま、ちょっと急いでるんで、このスーツケース、向こうの改札の駅員さんに預けておきますんで」

「で、そのおせっかいな男は、背中にギターを背負った田舎もんのか弱き美少女からスーツケースを勝手にひったくって、そのまま階段をダッシュしていってん。そのとき、持ち逃げされんよう、慌ててスマホで撮った写真が」 「この写真かよ?」 「せやで、か弱き美少女の自己防衛やな」「その後ろ姿、か弱き美少女の目には、めっちゃかっこよく映ってたんやで」

私はもう、60歳を超えている。だが、『ロールキャベツ』の中で、仲間と共に、自由に、自分たちの手で未来をつかみとろうとする若者たちがまぶしくて、自分の青春時代をその若者たちに重ねてみたりして、そして、彼らの未来を想像したりして、読了後は少し、私の心が若返ったように思えた。諸君も是非、読んでみて欲しい。読書は、そう、想像力を耕し、豊かにするのである。

私は実は、子どもの頃から大相撲が大好きだ。小学校や中学校の頃、友だちとよく、校庭で相撲をとって遊んでいた。わたしの古里は福岡なので、九州場所があるときは、友だちと自転車をこいで、お相撲さんを会場の外で待ち伏せしていたりもした。

ウクライナ出身の安青錦(本名=ダニーロ・ヤブグシシン)が11月の九州場所で優勝した。私は飛び上がって喜んだ。彼が日本にやってきたのはわずか3年前。私は彼の土俵をずっと応援していた。ウクライナが戦場になったので、日本の友人、山中新太さんを頼って一人で日本にやってきた。山中さんは自宅に住まわせ、寝食を共にして、安青錦を支えた。安青錦は自身の名前に、山中さんの名前「新太」をもらった。

私は、安青錦の強さには、誰よりも稽古(練習)をするその熱心さがあると思っている。しかし、自分を育ててくれる師匠(親方)のアドバイスは日本語。安青錦のまわりの人は異口同音にこう言うそうだ。「(安青錦は)ずっと日本語を勉強している」と。安青錦は、強くなるために日本語を誰よりも勉強して、強くなるためのアドバイスを自分の血肉にしていった。外国語の獲得。これが安青錦の強さの根源なのだ。

長崎の平和公園に立った安青錦は日本語でこう言った。「平和が一番。ウクライナの家族や友だちに会いたい」と。

 

最後……私事でごめんなさい。9月下旬に手術して11月1日まで入院した。……諸君の中に心配してくれた人がたくさんいた。感謝しています。ありがとう。

入院中、こう確信した。自分は生きているのではない。多くの人に「生かされているんだ」。そして、いのちを大事にしなければ、と毎日実感した。医師、看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士等々、多くの病院スタッフにお世話になった。だから私のいのちがある。

この女性にもお世話になった。名前は、アン(ANH)さん(仮名)。毎日、隅から隅まで病院内を掃除して、病院の清潔感を保ってくれた大切な人。私の部屋も毎日掃除してくれた。お給料はベトナムの家族に送っているという。

彼女が部屋に来たら毎日5、6分、彼女はベトナムのこと、私は日本のことを語る、そんな毎日が楽しかった。意思疎通は、彼女の片言の日本語と私の下手な英語。

「Were you studying Japanese in Vietnam?」(ベトナムでは日本語を勉強していたの?)

「いいえ、日本に来てから、自分で勉強しました」。すごい。日本に来てわずか9か月でこの日本語。

退院の日、わざわざ私を見送ってくれた。これはそのときの一枚。

「I want to show you around my hometown, Hanoi. There are so many beautiful spots in Hanoi. Let’s meet in Hanoi next time.」。そう言ってくれた。いつかきっと、ハノイで彼女に会いたい。

勉学に、国境はない。諸君なら言葉の壁も、努力次第で越えられる。すると、世界が広く見える。自分の未来の可能性が大きく広がる。安青錦とアンさんに、教えてもらったことだ。諸君の誰もが安青錦やアンさんになれる。

自分の未来を想像しよう。「人と比べるより、きのうの「自分を超えよう」「未来は自分の手の中にある」から。(ことし1学期「ホンモノ講座」講師 小林由美子さんのことばから)

みなさん、良いお年を。おわります。

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