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2025年度 1学期「終業のことば(校長)」

2025年07月17日

1学期終業のことば 校長

毎日暑い。汗だくになりながらみんな、本当によく登校した。夏休みも健康第一、くれぐれも熱中症に気をつけて過ごすように。大事ないのちを奪われないように。まずそれを願う。

記録的という言葉を何度聞いただろうか。あまりに早い梅雨明けに驚き、沸騰する季節が列島を覆って、天気図を赤く染めている。毎日のように熱中症で、どこで何人が搬送されたというニュースを耳にする。野菜や果物、稲などの作物の生育は大丈夫だろうかと心配になる。

一方で、集中的な豪雨のニュースも珍しくない。果たして人類は、気候変動から、わたしたちの日常を守る知恵と技術を手にすることができるだろうか。そんなことを思いながら、1学期を振り返る。

4月29日、大運動会があった。晴天。諸君の一生懸命さがまぶしかった。5月、1年生の生活合宿があった。みんな楽しそうだったね。6年間、かけがえのない仲間たちと共に、固い友情と、強い絆を結んで、自分で考え、自分で行動するんだよ。創立121年の伝統校、私学盈進の新しい歴史は、ここにいる1230人の諸君が、そう、諸君こそが、自分たちの手でつくるんだよ。

6月の「企業説明会」では、実社会に貢献する人となるためには何が必要かを学んだはずだ。

中略

……この夏、がむしゃらに英単語を勉強してみるのもいい。「盈進暗唱」を片っ端から覚えるのもいい。「スタディーサプリEnglish」は毎日、大いに活用してほしい。そして、どんどん英検の上位級を取得するんだ。必ず、未来が拓かれる。

中略

6年生。勝負の夏だね。生活のリズムを整え、朝早くから学校に来て、SF講座で心身を鍛え、集中して勉強するんだ。5年生。この夏から受験勉強に切り替えれば、難関大学に手が届くぞ。4年生。クラブ活動に没頭しながら、短時間でも集中して勉強する癖を付けるんだ。

3年生。修了論文に真剣に向き合うんだよ。しっかり本を読むんだ。そこで培われる読む力、書く力は必ず将来、諸君の進路を保障し、人生を豊かにする。1年生2年生。クラブの先輩の活動の姿、集中して勉強する先輩の背中を見て、先輩たちに近づけるように規則正しい生活をするんだ。

みんな、しっかり睡眠をとろう。できるだけ8時間だ。そして、しっかり食べよう。体力を維持するんだよ。夏休みも2学期も、自分の力で学校に来るんだ。親に車で送ってもらうのは「親離れ」していない証拠だぞ。自分で考え、自分で行動し、親から自立するんだ。

1学期、クラブ活動も多いに励んだ。硬式野球部は現在、連勝中だ。心から応援している。フェンシング部、剣道部女子、陸上部がこの夏、インターハイ出場を決めた。中学フェンシングも、中学水泳の飛び込み選手2名も全国大会だ。素晴らしい。諸君、その場で大きな拍手をしよう。

剣道女子は、広島県の優勝、準優勝がどちらも盈進生だ。中国大会では団体戦において決勝で惜しくも敗れたが、準優勝を決めた。バドミントン部女子、水泳部、体操も中国大会で奮闘した。

中国大会やインターハイに出るクラブだけではなく、キャプテン、上級生を中心に、どのクラブも礼儀正しく、よくまとまり、よくあいさつし、徐々に結果を出し始めている。とてもうれしく思う。

春、6年生2人がニューヨーク国連本部で核廃絶のスピーチを行った。諸君が全国規模で、また、国際的に活躍していることを心から誇りに思う。

痛ましい事故に心が締め付けられる。アメリカ・テキサス州では米国独立記念日の7月4日に悲劇的な大洪水が起きた。サマーキャンプに参加していた約120人が死亡。160人以上が行方不明だ。

なんと読むか。「吐噶喇」。トカラ。そう、小宝島や悪石島近辺を震源とする群発地震が続くトカラ列島。不安で精神的なダメージを受ける島民の方々の生活を思うといたたまれない。

先日、3年生の男子生徒が「地震学者になりたい」と言っていた。一昨年、「ホンモノ講座」で語ってくださった慶應義塾大学の地震学者、大木聖子先生の講演も刺激になって、将来は北海道大学に進学し、地震学者として社会に貢献したいと言っていた。頼もしかったし、うれしかった。

現在、その北海道大学で学んでいる諸君の先輩が民宅航平くん。剣道部キャプテン。『輝く先輩』でこう語っている。「学習面では、入学当初はクラスで最下位に近い成績からのスタートでした。でも、仲間と共に、逃げずに努力したこと、本を読んだこと、英検を積極的に受けたこと、志望校を高2の夏から変えずに、最後までやりきったことが合格につながったと実感しています」と。

きょうは、われわれ人間に与えられている“想像する力”を存分に使って、話を聞いてほしい。だから、きょうのテーマは「想像する」(Imagine)である。

生成AI(人工知能)が進化するなか、日本の高校生は自分でAIを使う経験が他の国より少ないことが先般、報じられていた。総務省の調査によれば、日本の高校生の「AIを利用して文章や音楽、絵画などをつくる」ことについて、「よくする」「時々する」は18%で、アメリカ、中国、韓国と比べて最下位。「自分でプログラミングを行う」も14%で最下位。

諸君、是非、盈進は、学校として、諸君の日常生活がより豊かになるために、どのようにAIを活用するべきかについて、活発な論議をして欲しいと思っている。

参議院議員選挙が20日にある。6年生で18歳になった者は選挙権がある。投票に行くべきである。

今年は、「普通選挙法」が成立して100年。納税額に関係なく、満25歳以上の男子全員が選挙権を持つことを定めた法律だ。だが、女子の選挙権はなかった。選挙権は、自由と平等を求めた先人たちの血と汗と涙の歴史そのものである。はじめからあった権利ではない。

ゆえに、その選挙権を行使することは、義務に等しいと私は考える。ドイツの哲学者カントは、誰もが従うべき普遍的な道徳ルールに自ら従う「自律」こそが、人間として大切な要素だと説いた。

もちろん、選挙権は権利であって投票は強制されるのではない。だが、歴史に学び、自分の理性に従って“義務”として意志を実行することに価値があると私は思う。それが、政治に対して責任を負うことであり、民主主義を守る大事な行動だと私は考えている。

私たちは、忙しい日常のなかで、過去に学ばず、未来を考えず、「いま」だけを見、見たくないものは見ない、そんな生活に慣れてしまっていないだろうか。その結果、「自分たち」を優先し、国籍や出自で峻別して他者を排斥するフェイクニュースやヘイトスピーチが巷にあふれていると私は思う。YouTubeや切り取りの動画だけで判断してはならないと思う。じっくり立候補者の意見を吟味して、どうすれば、「共に生きる」社会を創ることができるかを軸に考え、責任ある一票を投じて欲しいと願う。

ことしは戦後80年、ヒロシマ・ナガサキの被爆80年である。6月24日の全校集会。95歳の切明千枝子さんの被爆証言が紹介された。諸君には是非、もう一度切明さんの証言を胸に刻んで、「8・6」(広島原爆の日)「8・9」(長崎原爆の日)「8・8」(福山空襲の日)「8・15」(終戦の日)を迎え、真摯に過去に学び、「どうすれば平和な世界で『共に生きる』社会を創ることができるか」を考えてほしいと願う。切明さんの証言の一部である。

みんな、顔が1.5倍ぐらいに腫れ上がり、髪の毛は逆立ち、ちりぢりに焼けていた。

「みんなね、手の指の先からね、昆布かワカメをね、泥水に浸したような真っ黒い物がね、ぶら下がってるの。全身火傷。ももから下が焼けちゃって、皮膚がペロンと剥けて、それを引きずりながら帰って来たのよ」

「1人、また1人。『お母さん、痛いよ。熱いよ』ってうめきながら、泣きながら死んでいったのよ。」

「それはもう、地獄でございました。」

ことしは、ベトナム戦争終結50周年でもある。「のBooks」に、石川文洋さんの『写真記録ベトナム戦争』を置いている。手に取って一枚一枚ゆっくりめくりながら、平和やいのちの大切さを感じて欲しいと思う。

この一枚。戦火の中、不安におびえるベトナムの少女。石川文洋の代表的な一枚。先般、この少女は生きていて、87歳の石川文洋さんがたくさんの孫たちに囲まれて生活している彼女と、感動の再会を果たしたというニュース見た。不覚にも泣いてしまった。「平和だからいのちがつながり、いのちがつながって平和がある」と思った。

まもなく3年半を迎えるロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザの惨状などを見ると、力による現状変更や支配がまかり通り、「盗人にも三分の理あり」といわんばかりに、それがまるで、世界のルールのようにも思える世の中になってしまったと私は感じる。

7月2日の天声人語から一部を引く。ガザの人々の現状である。

「食料を求めて配給所に集まったガザの住民にイスラエル軍が連日発砲し、計500人以上が殺されたという。『銃声が聞こえても列を離れられない。家には食べ物がないのでなんとか持って帰らないと』。……ガザでは『ほとんどの家庭が栄養価の低い食事を1日1回しか摂取できていない』という。子どもや高齢者を優先するため、大人は食事を我慢するのが日常だとも。……これまでの戦闘でガザの犠牲者は5万6千人を超えた。破壊され尽くした土地で、無防備な人々が飢餓に苦しんでいる。」

6月13日、イスラエルがイランを攻撃。22日に米国が参戦。イランへの核開発施設を攻撃した。

トランプ政権はこの攻撃が成功に終わったと発表。その際、あろうことか、80年前に広島と長崎に原爆を落としたことを引き合いに出した。原爆が第二次世界大戦を終わらせ、多くの人々を救ったのと同じで、米国によるイランへの攻撃でイスラエルとイランが停戦に合意するに至り、それ以後、多くの人々が犠牲にならずにすんだのだと。

私は、このときもそうだが、最近の報道にとても違和感を覚えている。世界中のメディアがトランプ大統領の個人アカウントに張り付き、感情丸出しの投稿に一喜一憂しているのだ。国際ルールも無視した相互関税率に関する報道でも、トランプ大統領の一挙手一投足に振り回されている現状は明らかに異常ではないかと私は思う。

7月7日、トランプ大統領とネタニヤフ首相は、ガザの住民を域外に移住させるための取り組みを進めていると語った。ユダヤ人国家イスラエルは移住先を「人道都市」と称しているが、実態は強制的な収容施設に近い。もし、実行されれば国際社会から非難が高まるのは必至だ。それは、かつてユダヤ人がナチスにされた強制収容「ゲットー」に等しい、と私は思う。そんなニュースに私はとても悲観的だ。

そんな中、二冊の本に少し、心が救われた。1冊目。イラン人のサヘル・ローズさんの『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと~自分を愛し、困難を乗り越える力』。いま、自分の存在を確かめたかったり、家族や友だち関係で悩んだり、落ち込んだりしている人には断然、おすすめの一冊。

タレントやコメンテーターとして活動しながら、国内外で貧しく傷ついた人々の支援活動を続けているサヘル・ローズさん。戦争で家族を失い、7歳まで孤児院で育った彼女。養母に引き取られて、日本で暮らすが、路上生活や学校でのいじめに深く心を痛める。さらに、イランに帰国した折、叔父から性被害を受け、何度も死を考えたという衝撃の事実も語られ、私は言葉を失った。

そんな彼女がまっすぐに読者に語りかけ、寄り添うことばが実にあったかい。「人を傷つけるのも『人』なら、救えるのも『ヒト』」なのだと。彼女は、読者にお願いする。傷ついた人を忘れないように、「一日15分でもいい。世界で起きている、他の人が経験しているリアルを学びとる時間を取ってほしい。ゲームや推し活などの時間を少しだけ、けずってね」と。

もう一冊。ノンフィクション作家、梯久美子さんの『やなせたかしの生涯~アンパンマンとぼく~』。現在、NHKの朝ドラ「あんぱん」が人気のようだが、やなせたかしは、諸君もご存じ、国民的キャラクター「アンパンマン」の作者。いまでものグッズ販売など、「アンパンマンビジネス」は、国内だけでも1500億円と言われている。そのアンパンマンを誕生させたやなせたかしを師と仰ぐ梯久美子さんが、やなせの生涯を丹念に掘り下げている。先般、熊本に用事があって、たまたま熊本市現代美術館で「やなせたかし」展をやっていたので、ゆっくり鑑賞した。すでにこの本を読んでいた私は、やなせが残した作品の数々を観ながら、やなせの深く、清く、広い心を持つ人間性に胸打たれた。

幼少時、父が亡くなり、母が再婚したのを機に、伯父に育てられたやなせ。弟は戦死。自分も兵隊となり、中国に出征。理不尽な暴力や飢えを体験した。そのような、辛く悲しい体験を通して、得意な絵や詩などで、人をよろこばせたり、分かち合ったりすることを、やなせは自分の生きがいとした。

やなせと一緒に仕事をした作者の梯久美子さんがこう書いている。「忘れられないのは、先生(やなせ)の『天才であるより、いい人であるほうがずっといい』という言葉です。誰もが認めるすばらしい作品を世に出すことよりも、地道に仕事をして、与えられた命を誠実に生き切ることのほうが大切だ…それが先生の考え方であり、生き方でした」と。

仕事がうまくいかなかったやなせは、ある時ふと、机にあった懐中電灯を手にとってスイッチを入れ、光に手のひらをかざしてみた。すると、指と指のあいだが光に透けて、きれいな赤色に見えた。生きているたしかな証拠がそこにあった。そして、この詩、この歌が生まれた。やなせ42歳の時である。

ぼくらはみんな 生きている  生きているから 歌うんだ  ぼくらはみんな 生きている

生きているから かなしいんだ  手のひらを太陽に すかしてみれば  まっかに流れる ぼくの血潮

ミミズだって オケラだって  アメンボだって  みんな みんな生きているんだ  友だちなんだ

軍隊で飢えを経験したやなせは、50歳の時にアンパンマンを書き始めた。自分の顔を食べさせるキャラクターは最初、さんざん酷評された。グロテスクであり、子どもたちにいい影響を与えない、というのがその理由だった。だが、大人たちの予想に反し、アンパンマンは子どもたちの間で大人気となる。

アンパンマンがテレビ放映されるようになったのは、やなせが69歳の時だった。私でも歌える「アンパンマンマーチ」も、やなせの作詞である。

そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ胸の傷がいたんでも

なんのために生まれて なにをして生きるのか こたえられないなんて そんなのは いやだ!

今を生きる ことで 熱い こころ 燃える だから 君は いくんだ ほほえんで

そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ 胸の傷がいたんでも

ああ アンパンマン やさしい 君は 行け!みんなの夢 まもるため

先ほども伝えた6月13日、イスラエルがイランを攻撃した日。ラジオからこの曲が流れてきた。この曲はジョン・レノンが、ベトナム戦争の只中でつくった。ジョン・レノンは、私が高校1年生の時に殺された。それは1980年12月8日のこと。その日は当然、いや、その日からしばらく、この「Imagine」が、ラジオからずっと流れていて、私は歌詞も、自然と覚えた。

Imagine there’s no heaven   It’s easy if you try

想像してみて、天国など無いと。 その気になれば簡単さ

No hell below us      Above us only sky

大地の下に地獄など無く  頭の上にあるのは、空だけ。

magine all the people  Living for today…

想像してごらんよ、みんなが今日を生きている

Imagine there’s no countries     It isn’t hard to do

想像してみて、国など無いと。      難しい事じゃないさ

Nothing to kill or die for        And no religion too

殺したり、殺されたりすることもなく   宗教も無い。

Imagine all the people Living life in peace…

想像してごらんよ、みんなが平和に暮らしている

You may say I’m a dreamer    But I’m not the only one

君は僕を夢想家だと言うかも     でもそれは僕だけじゃない

I hope someday you’ll join us    And the world will be as one

いつか君が仲間になってくれたら   世界は一つになるんだよ

7月9日ホンモノ講座。小林由美子さんがこう仰っていた。「未来はきょうの手の中にある」と。

未来は、きょう、いまを精一杯生きる、その向こうにあるのだと。いいことばだよね。終わります。

 

 

 

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