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2023年度 中学卒業式 校長式辞

2024年03月16日

中学卒業式 式辞

「仲間と共に、自分で考え、自分で行動する」~諸君は、かけがえのない“明日”である~

 

前略

保護者のみなさま、お子さまの中学ご卒業、誠におめでとうございます。

あわせて、これまで本校に対して多大なるご理解とご協力を賜り、心から感謝いたします。

また、今後とも引き続き、ご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

 

諸君、中学卒業、おめでとう。

私は、諸君が入学する以前からこう問い、伝え続けてきた。「学校で一番大切なものは何か」それは「仲間だ」と。諸君はずっと、ここにいる仲間と共にあった。信頼する仲間があって感性が豊かになった。学力も伸びた。クラブ活動も楽しかった。だから、そんな仲間たちを決して裏切らず、これからもずっと大切にしてほしい。

コロナの4年が経過した。この間、とても息苦しい日々だった。会いたい人に会えない日が続いた。運動会、各種の大会やコンクール、感謝祭も中止や縮小に追い込まれた。悔しさが残ったことであろう。ほんとうによく耐え、ここまできた。そして、ありがとう。

そんな日々にあっても、勉学や学級活動、そしてクラブ活動に励み、ほんとうに努力した。先般の駅伝大会。クラスを超えて力いっぱい応援する諸君の熱い友情を感じた。また、「キャリア・イン・京都」の報告プレゼンや「修了論文プレゼン大会」での諸君の姿を見て、その言動や内容にとても質の高い中学3年生だということを実感し、よくここまで成長したと、心からうれしくなった。わたしはすべてのプレゼンに感激した。最高のプレゼンを行った高橋賢一君には思わず、その構成力と表現力にうなった。

それだけではない。クラブ活動も福山地区はもちろん、広島県レベルで活躍した。文化部も高いレベルの評価を受けた。創立記念式典での表彰や、先ほどの表彰がそれを物語る。全国レベルの活躍もある。誇りに思う。間違いなくこの地域NO.1の中学3年生の集団だと思う。

いま表彰された修了論文。最優秀賞の足立美咲さんと優秀賞の渡邊日梛くん。二人は、自分自身や身近にある疑問を吟味し、先行の研究を重んじ、そしてしっかりと本を読んだこと。さらに、他者の意見を受け入れ、FW調査も用いて論理展開の裏付けとなる客観性を持たせたことが高く評価されたと思う。実にすばらしかった。さらに思考を深めてほしい。

読書感想文もすばらしかった。わたしの講評はすでに新校舎本館と中学棟を結ぶ2階通路のパネルに掲示した。生徒の読書感想文はそれぞれ、保護者の方々に、画像データで送られていると思います。是非、ご家庭で会話し、ほめてやって下さい。

本に親しむ者は、謙虚に自分にチャレンジし、自ら未来を切り拓くパイオニアとしての可能性を大きく広げる、と私は考えている。

コロナで心身が疲れた。そして日常が変わった。何もかもデジタルとなった。宇宙開発も日常の話題となった。政治バランスや経済も変わった。能登半島地震の被災者を忘れてはならない。ウクライナやパレスチナで死傷者が増え続けている現実に胸が抉られる。ガザの生活環境はもはや壊滅的で、3万人が亡くなったと報じられている。「怖いよ、死にたくないよ」と泣きじゃくる子どもたちを見て、思わず目頭が熱くなるのはわたしだけではないだろう。

アフガニスタン、スーダン、シリア、ミャンマーなど、世界のあちこちで、権威主義や独裁者たちが人権と平和を侵害し、民主主義を踏みにじっている。そのように抑圧や弾圧が続き、自由や平等、人権や民主主義、法の支配といった普遍的価値さえ、その本質が見えにくくなっているばかりではなく、いまや心もとない。そしていま、核の脅威や気候変動の問題(環境破壊)は人類生存の危機であると、日々の暮らしの中で意識せざるを得なくなった。

コロナ禍で、感染者やご家族、医療従事者やその子どもを含むご家族等への心ない差別が報じられた。病気を「正しく怖れる」べきであることは言うまでもないが、コロナ禍での最も貴重な学びは、怖いのは、誰にでもある「人を差別する」という人間の弱い心であること。そのことを自覚し、その弱い心を制御して、誰にでも対等かつ平等に接することの価値を見つめることではなかったか、とわたしは思う。わたしたちは、予測できない危機に遭遇し、激変の時代だからこそ、傷ついたり困ったりしている人々のことを忘れず、隣にいる人と、そして、世界の人々と、「共に生きる」という視点を失ってはならない。

先日の「ホンモノ講座」。慶應義塾大学環境情報学部の大木聖子先生がヒューマニティーあふれる研究者だということを諸君も感じたことだろう。大木先生は地球科学者で地震学が専門。何がきっかけで地震学を専攻したか。大木先生は、高校生の時に起きた阪神淡路大震災に衝撃を受けたとおっしゃっていた。助かる命が助からない現実を見て、どうすれば命を助けられるのか、どうすれば明日に希望を持つことができるか、それを研究しようと思って北海道大学の理学部地球惑星学科に学んだと。

大木先生はその後、東京大学地震研究所を経て、慶應義塾大学へ職を移した。その同じ年、2013年4月に慶應へ学生として入学したのが現在、中国新聞記者の山本真帆さん。君たちと同じく中高時代を盈進で過ごした山本真帆さんは、この講座も取材に来ていた。山本真帆さんが高校2年になる直前の3月11日に東日本大震災が起き、山本さんは、明日を迎えられなかった人々のいのちに強い衝撃を受けた。

山本さんがある日、わたしの所へ来て新聞記事を差し出した。1945年8月6日、広島に投下された原爆で放射能を浴びた大内佐市さんという福島出身の方が、東京電力福島第一原発の事故によって人生二度目の放射能被害に苦しんでいるという記事だった。山本さんは、広島に暮らす者の使命として核廃絶署名活動を中学時代から行っていたので、原発事故の放射能被害が気になってしょうがなかったのである。そして、わたしにこういった。「わたし、福島に行きたい。大内佐市さんに会いたい」と。

震災から4ヶ月後の7月、理事長先生の厚いご理解とご援助をいただき、わたしは、真帆さんと真帆さんの仲間たち、そして教員仲間と共に、福島と宮城に行った。行ってこの目に被災地を焼き付け、被災地を体全体で感じ、被災者と出会った。そして声を聞いて記録した。

そのときに出会った人々とは、山本さんもわたしも、それから現在までずっと、つながっている。だから、山本さんは、慶應義塾大学入学後、大木先生の研究室を訪ね、大木先生の考え方に共感し、大木先生のもとで防災学を学んだ。地震も、津波も、原子力についても、山本さんは大学で学んだ。山本さんは、原子力のことをもっと知りたくて、原発に依存しないことを決めたドイツに1年間留学した。

そして山本さんは、命と暮らしを守るために、明日を信じて、“記録し、伝える”ことを生業とする新聞記者になった。盈進は、山本真帆さんを通じて大木先生を知り、そして、大木先生に「ホンモノ講座」に来てもらったということである。

「ホンモノ講座」で、君たちからこんな質問があった。「被災地のためにできることは、募金以外で何がありますか」。大木先生がこうおっしゃった。「忘れないこと。そのために、記憶し、記録すること」。

高校2年生だった山本真さんは東日本大震災から8ヶ月後、すでに忘れられようとしている被災者のことを忘れないように、仲間と共に、自分たちで考え、生徒会の仲間も環に加え、毎月11日を「被災者に思いを寄せる日」として、暑い日も寒い日も、盈進坂に立って、「被災者を忘れない」と声を出して呼びかける行動を起こした。その魂は後輩たちに脈々と引き継がれ、13年を経過したいまも続いている。現在は、東日本大震災だけでなく、2014年の広島豪雨、2018年の西日本豪雨、そしてこのたびの能登地震なども加えて、「忘れないこと」を訴えているのだ。記憶は記録され、それが歴史をつくる。

大木先生は学生時代の山本真帆さんについてこう評していた。「誰にも分け隔てなく接し、誰からも頼られる学生で、あだ名は“天使”でした。人の意見をちゃんと聞く。自分の意志はちゃんと持っている芯の強い女性」と。

諸君も是非、山本先輩のように仲間を大切にする「独立独歩の人」であってほしいと願う。

諸君には引き続き、読書をしてほしい。山本真帆さんはほんとうによく、本を読んでいた。

彼女が中学2年生の時に書いた文章を読んで、その質の高さに驚いたわたしは、彼女に「君は将来、文章を書く仕事がいいと思う」と伝えたのをよく覚えている。

はからずも昨年秋、京都から帰省した長男が持ち込んだコロナに罹り、わたしも学校を休むこととなった。熱が下がって読みたかった本を数冊読んだ。

「全国の教員が中高生にいちばん読んでほしい本」として紹介されていた瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』。映画にもなっているらしい。2018年の書店に勤める人が薦める「本屋大賞」だ。いま、図書館の特別コーナーで紹介されている。

主人公の優子は、4回も名字が変わる若い女性。血のつながらない親の間をリレーされながらも、出会う家族みんなに、愛情をいっぱい注がれてきた彼女。その彼女が結婚するときに、隠されていた真実がついに……というストーリーだが、これまたはからずも、わたしが、鼻水まじりに泣いてしまったのは次の一節だった。わたしは3人の子どもに恵まれたが、子どもたちの成長を振り返って、この一節にその時間と経験を重ねて心を揺さぶられた。

優子という名の主人公が、「親になる」という意味を聞くシーンである。

「優子ちゃんの親になってから明日が二つになったよ。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ(ふたつの)明日が、やってくるんだ。親になるってことは、未来が二倍以上になるということだよ。明日が二つになるなんてすごいと思わない?自分のよりずっと大事な明日が毎日やってくる。すごいよなあ。どんな厄介なことが付いて回ったとしても、自分以外の未来に、手が触れられる毎日があるということなんだ。それって、すごいことなんだ」……

そのかけがえのない“明日”は、子どもの数だけ、親に、足されるわけだ。

諸君。諸君はみな、われわれ大人にとって、「毎日やってくる大事な、大事な明日」なのである。

ここに諸君がいることがすでに奇跡であり、諸君がいるから、わたしたち大人も、明日に希望を持てるのだよ。よくぞ、ここにいてくれた。諸君の存在に心から感謝する。

地域に冠たる伝統校、盈進の合言葉は119年間ずっと変わらず「仲間と共に」。それは、「共に生きる」と同じ意味である。建学の精神「実学の体得(社会に貢献する人材となる)」の下、仲間との絆を大切にしてきたからこそ119年の歴史が紡がれ、わが盈進はここにある。

今年度1学期始業式、わたしは諸君に、インド独立の父ガンジーのことばを伝えた。Be the change you want to see in the world. あなたがこの世界で見たい変化にあなた自身がなりなさい。

人生の可能性をどれだけ広げられるか。それは自分次第だ。だから、自分が変わる。失敗もOKだ。学校は失敗を経験するところだ、とわたしは思っている。他者から与えられるものには限界がある。だが、自分が変わり、自分から求めればその可能性は尽きることはなく、さらに大きくなる。高校生の諸君にますます期待する。そして、諸君が本当の新しい盈進の、そして、答えのない未知なる新時代の、真のChallengerであり、Pioneerであると信じている。

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