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2学期終業のことば(校長あいさつ)

2020年12月25日

2020年度 2学期「終業のことば」

テーマ「共に生きる」

(前略)

今年は、運動会、各種の大会やコンクール、感謝祭もの中止となりました。それらに向かって日々、努力を重ねてきた生徒にとっては、悔しさが残る1年でした。

そのような中で12月、5年生の長崎学習旅行が出来たこと、そして、今週22日(火)「新グラウンド、オープニングフェスティバル」が出来たことをうれしく思います。

また、中高野球部、剣道部、バレー部、音楽部、バドミントン部、水泳部、ヒューマンライツ部、など、文武両道で活躍した生徒たちに拍手を送ります。

高校硬式野球部は、あと一歩のところで甲子園出場を逃しましたが、グラウンドで活躍する者もスタンドで応援する者も、同じ伝統のユニフォームで一体となり、一戦一戦たくましく成長していく姿を見られたことは、わが私学盈進の誇りでした。感動をありがとう。

長い休校が明けて6月、ようやく平常の生活に戻りました。とはいえ、感染防止に努めた毎日あり、窮屈な生活は続いています。みなさん、本当によく耐え、努力しました。ありがとう。

日常が変わりました。これまで感じたことのない「人と人との距離」を常に意識せざるを得なくなりました。11月に行われたアメリカ大統領選挙も新型ウイルスへの政治的対処が焦点となりました。日本の現政権も後手に回ったコロナ対応が大きな要因で支持率が下がっています。自由や人権、民主主義といった人類普遍の原理さえ、「何が本当なのか」という問いを突き付けられたと、私は思います。そして、仲間や家族とのたわいもないおしゃべりが、とても大切なことであり、貴重な時間だったと気づかされました。

3月も休校、4月半ばから再び休校となりました。休校中、または、休校明けに、私がみなさんに出したメッセージを少し、振り返ります。

4月21日、休校となってすぐに、感染者やご家族、医療従事者やその子どもを含むご家族等への心ない差別的な発言や行動が報じられている中、「他者を異物として排除することは間違っている。差別は自分の心の中で生まれる。だから、差別はひとり一人の心の持ちようによって食い止め、なくすことができる。みなさんには、こんなときこそ、他者にやさしさを持てる人であってほしいと思っている」と伝えました。

(中略)

今日は、2020年を終えるにあたり、「共に生きる」をテーマに話をします。

みなさん、今年のノーベル平和賞の受賞者が誰だかすぐに言えますか?

そう、人ではなく、今年は国連の団体でした。「国連WFP」です。WFPとは、「World Food Programme」の頭文字で「世界食糧計画」という意味です。ではWFPはどんな団体なのか。

これはWFPの新聞広告です。「食糧支援はコロナと闘う底力からとなる」(新聞提示)

現在の世界の人口は約77億人。その1割ほどの約7億人、つまり、地球上の11人に1人が日々、十分に食べることができずにいると推計されています。WFPは、紛争や自然災害、気候変動、貧困の現場で、飢えに苦しむ人々へ食糧を届ける活動をしています。

国連は17項目からなる「持続可能な開発目標」(SDGs)を採択し、2030年までに達成することをめざしています。その2番目の目標が「飢えをゼロに」です。

新型ウイルスの影響で、開発途上国を中心に、深刻な食糧不足に苦しむ人は倍増する勢いです。食糧の提供は、ウイルスに打ち勝つ免疫力をつけ、命を守る力になります。(新聞提示)

空腹の人々の中でも、君たちと同じ子どもたちが、やはり気になります。空腹のまま学校に通うと、授業に集中できません。開発途上国の国々には、親の畑仕事や家事を手伝うため、学校に通うことすらできない子どもたちも大勢います。そこで、WFPはこう考えました。

学校給食があれば、こうした子どもたちの栄養状態や健康が改善されるだけでなく、出席率upや成績向上にもつながるので、WFPは、世界の給食支援に力を注いでいるのです。その給食でたくましく育った子どもたちが、やがて大人になり、その人たちが自分の国をよりよく、より豊かに改善する中心人物となることを期待しているのです。だからWFPの究極の目標は、各国が独自で学校給食を実施できるようにすることなのです。WFPが支援してきた100カ国以上の国うち、現在その国が自力で学校給食を実施している国の数は44にのぼります。

飢えた人たちが増えると、新たな難民を生み、それが地域の不安定化につながる。ひいては、世界秩序、世界経済の不安定化を招く。つまり、世界の問題は、日本の問題であり、私たちひとり一人がこの問題の当事者なのです。「共に生きる」という視点が欠かせないのです。

そんなことを思っていると、私は、昨年の12月4日、外国で殺害されたある日本人を思い出しました。

みなさん、その人の名前が言えますか。私は1年前、そのニュースを聞いて、信じられず、一瞬、目の前が暗くなって座り込みました。

亡くなったのは中村哲という医者。アフガニスタンのジャララバードで事件は起きました。

*アフガニスタンはここです(地図提示)。現在、すべての教室に、JICAの世界地図が貼ってありますから、WFPの活動とともに、アフガニスタンを探して、中村哲医師に思いを寄せてほしいと願います。

では、中村哲医師は、アフガニスタンで何をしていたのでしょうか。病気の治療でしょうか。いや、活動の中心は治療ではありません。中村哲先生の本から少し、抜き出してみます。

「ダラエ・ヌール診療所で群れをなして待機する患者たち。患者の大半が感染症を患い、犠牲者の大半が子どもだった。外来で待つ間、死んで冷えてゆく乳児を抱えた若い母親が途方に暮れていた。その姿がまぶたの奥深く焼きついて涙がこぼれた」

20年前の2000年、この光景が、中村先生がアフガニスタンで活動する原点となりました。

これが私の大好きな本。『医者 井戸を掘る』。サブタイトルは「アフガン旱魃との闘い」。(本提示)

私は24年間、ハンセン病という感染症にかかった人々が国や市民から差別を受けてきた問題に関わっています。そのなかで、私は中村先生の行動を知り、共感して、中村先生が私と同じ福岡の出身だったこともあり、彼の活動の中心的な支援を行う「ペシャワール会」という会の会員となりました。

中村先生はもともと、ハンセン病の治療でアフガンを訪れますが、治療しようにも井戸が枯れて水がありません。水がなければ治療はできません。いや、人々は生きていけないのです。だから、中村先生は、アフガンの人々といっしょに自ら井戸を掘ったのです。

アフガンでは紛争が絶えませんでした。するとどうなるか。

紛争は貧しさを拡大させます。貧しさゆえに、お金欲しさに、若者が雇われて、銃をとって兵士となり、紛争に出向くのです。そうして、貧しさゆえに紛争が繰り返されるという「負の連鎖」がアフガンにはありました。そんなアフガンに、容赦なく土地が干上がる「旱魃」が襲い、貧しさの深刻さを増加させていたのです。紛争と貧しさは、病気も拡大させます。ですから、中村医師は考え、行動したのです。

現地の人々と共に生き、共に汗をかいて、井戸を掘り、若者もいっしょに畑を作って、水を撒き、食糧を自給し、いっしょに食べて、共に暮らす。そうすることによって、人々は貧しさから解放され、兵士にならずに、畑で作物を作って家族を養う。そんな家族が増えれば、アフガニスタンが、誰かからの支援ではなく、自分たち自身の力で、よりよい、より豊かなアフガニスタンという国をつくっていくことなると考え、行動したのです。

中村先生は私に、市民運動が国際貢献と社会変革の可能性を持っていると教えてくれました。その可能性の基となる思想と行動の根っこは、「共に生きる」だったのです。

『医者 井戸を掘る』は、図書館「みどりのECL」にあります。私の本を貸すこともできます。

この本の随所に、中村先生の教養、すなわち、数学、理科、社会、語学力、保健、芸術などなど、現在、君たちが学習している教科学力が、飢えている人々の生活のために生かされているとわかります。

みなさん、いつも伝えていますが、本を読もう。新聞を読もう。本や新聞は、自ら考え、行動するヒントを与えてくれます。本や新聞は、「毎日をどう生きるか」という哲学を授けてくれると、私は思っています。盈進図書館「みどりのECL」に毎日行って、本を手に取ってください。

活字が苦手な人もいるでしょう。そんな人は、例えば写真集でもいい。手に取ってください。たった一枚の写真が「自分が進む道」に導いてくれるかもしれません。たった一冊が、その中のたった一行が、自分の折れそうな心を支え、希望をつくってくれると、私は思っています。

「みどりのECL」にはこんな新聞もあります。『朝日中高生新聞』(新聞提示)。一面を読んで、希望が湧いてきました。この女性を知っていますか。アメリカのバイデン新大統領の補佐を務める副大統領に就任予定のカマラ・ハリスさんです。彼女の母はインド人です。父はジャマイカ出身。彼女はアメリカ史上初の女性で、黒人で、アジア系の副大統領となるのです。

私と同じ年の56歳。アメリカは今年、女性参政権、すなわち、女性が政治に参加する権利、つまり、選挙権を手にしてちょうど100年を迎えました。アメリカが、いや、世界が待ち望んだ副大統領誕生となるのです。

新聞の特集は、11月7日に行われた「勝利演説」の内容です。

「But while I may be the first woman in this office. I will not be the last. Because every little girl watching tonight sees that this is a country of possibilities.」

私は初の女性副大統領になりますが、最後の女性副大統領にはならないでしょう。なぜなら今夜、ここ(アメリカ合衆国)が、可能性に満ちあふれた国だということを、すべての少女たちが目の当たりにしているからです。

この演説に、私は胸を打たれました。

私たちは、今、隣に座っている人と、地域の人々と、世界中の人々と「共に生きる」ために生きていると、私は思っています。伝統校盈進の合いことばは「仲間と共に」です。それは、「共に生きる」とまったく同じ意味です。

6年生諸君、とてもしんどい1年でした。最後の最後まで諦めない人に、必ず合格がやってきます。最後の最後まで、仲間と共に、先生方を信じて、何より自分を信じて踏ん張ろうね。

良いお年を。気を緩めず、感染防止に努めて、元気に1月7日、始業式に会いましょう。終わります。

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